ゴナ、ナールの作者の中村征宏さん✕フォントダス対談


 今回、ゴナやナールの作者である中村征宏さんとお近づきの機会をいただきましたので、長年中村さんのファンである私が、色々聞きたいことを質問して答えていただこうと思っています。

 中村征宏さんをご存じない方にどんな方なのかご説明しますと、「ゴナ」というモダンゴシック体のパイオニア的書体があるのですが、それをデザインされた方です。あとナールという丸ゴシック体もデザインされています。ナールは、雑誌アンアン等で使われて一世を風靡した書体で、当時の女子はナールを真似て丸文字を描く人が多かったと聞きます。ゴナもナールも写植専用書体だったので、デジタルフォント化されておらず、今では同じモダンゴシックでゴナに似ている「新ゴ」というフォントの方が、デザインをやられている方はもちろんのこと、フォント好きな人はだいたい知っていると思いますが、写植全盛期の当時は新ゴよりゴナの方が圧倒的に人気があったのです。そして今でも書体のクオリティにこだわる方々からゴナは圧倒的に評価が高いです。

(フォントダス)

フォントダス 中村さんこんにちは。お久しぶりです。中村さんとお話するのは、今回2回目ですが覚えてらしゃいますか?

中村 覚えています。

フォントダス ありがとうございます! 前回は、『和文と欧文』のイベントで質問させていただいたり、後の懇親会でお話させていただきましたね。

中村 2017年2月に大阪で、『和文と欧文』(主宰:上田寛人様)が主催してくださったイベント『看板文字と中村書体』でお会いしました。あの折はご参加ありがとうございました。

フォントダス 写研が出してる『文字に生きる』っていう本にゴナが紹介されているんですが、それに載っている字形が製品版と違う形をしているのでこれはなんですか? っていうマニアックな質問した者です。

中村 これはゴナUのかなを2種類提案した時の不採用の字形です。

フォントダス 没になった字形が『文字に生きる』に載っていたんですね。

中村 そのとおりです「な」「ふ」が明らかに違います。

フォントダス ここの字形、ゴナはオプション的なかな書体が3種類あって、その一つ、ゴナかなO(オーソドックスタイプ)と似ているんですが、比べてみると違います。ところで、このかな書体も中村さんのデザインなのでしょうか。

中村 これはゴナU発表後何年か経ってからゴナのかなのみを別に作って欲しいとのお話がありました。5案出した中からこの3種が採用となりました。3種の、ひらがな、カナカナを作りました。この中で一番使われたのは「ゴナかなC」でした。

フォントダス へー、そうなんですね! かなが変わるだけで印象変わりますよね。僕は昭和50年生まれで実はゴナUと同じ年なんですよ(笑)。ゴナは、物心ついた頃から綺麗なゴシック体と思っていました。
 藤子不二雄の漫画とか雑誌でよく見かけたり。でもゴナっていう名前だと知ったのは結構後(二十歳前後)のことです。
 ゴシック体と中村さんのイニシャルで「ゴナ」だって事を知ったとき、案外適当に名前をつけてるんだなと思いました。すみません。

中村 そうです。この二つの頭文字を合わせただけのネーミングです。ほとんどの書体名は写研の社長石井裕子様が付けています。

フォントダス ゴナについてもう一つ質問があります。「ゴナ」の濁点処理についてなんですが、「筑紫ゴシック」のように濁点と文字を重ねてしまうものや、「新ゴ」のように濁点のシルエットに文字を切り抜く処理は良く見るのですが、水平にカットした文字の上に、濁点を配置する処理は珍しいなと感じました。どのような考えからこの処理方法が生まれたのでしょうか。あと、濁点を「段差をつけて配置したもの」と「ガタつきなく配置したもの」がありますが、複数の配置ルールがある意図もお伺いしたいです。

中村  水平にカットしたのは、上のアウトラインを下へずらすとの考えです。それにより見た目で斜めより安定感が出ると思いました。濁点が揃っているのと段違いになっているのは、点を打つスペースの問題と見た感じの双方から判断しました。矛盾してると指摘されればそのとおりです。

フォントダス 次にナールについて質問させてください。ナールの「お」や「た」は、一画目の線が横いっぱいに長くて、その下に点などが収まっている、とてもユニークなデザインなんですが、あの骨格にした意図が知りたいです。手で字を書かれる時、こういう風に書かれていたんですか? 僕もフォントを作っているんですが、あの骨格は普通思いつかないです。特に「お」の点の位置が。

中村 これは私がテレビのテロップで日頃書いていた「お、た、む」です。ナールではこの字形が元になっています。特に意識してこの形にした訳ではありませんが、テロップで書き慣れていたので自然にそんな形になってしまいました。
 NHK朝の連続ドラマで『おはようさん』がありました。そのタイトルを私が書かせて貰いましたが、その時、2種「ナールのお」と上のおの横線が短い「普通のお」で提出したところ、「普通のお」の方が採用となり放映されました。ナールの「お」には違和感があったのかも知れません。

フォントダス しかし中村さんの文字は本当にバランスが良くクオリティがとても高いと思います。ゴナと他の似た書体の字形を比較したことがあるんですが、バランス感覚の差が歴然としています。中村さんが若い頃から看板屋さんをやられていた経験値がそうさせているのかなと思いました。

中村 1957年中学を出て弟子入りした、三重県四日市市のライオン看板店の店主(師匠 藤田美義様)が凄く文字が上手な方で、遠方からもライオンの文字がいいと看板の依頼が来ていました。この文字を3年間見ていましたので、その字形やバランスが私の記憶にあって、ゴシック体に取り入れたからかと思っています。この3年間の経験が私の文字の重要な基礎となっています。これが無いとその後の文字デザインは多分出来なかったと思っています。

フォントダス 中村さんの作られた書体で「ファン蘭」も大好きです。この書体、なぜ好きか考えたんですが、多分任天堂が好きだからと思ってます。僕の世代って、ファミコン世代なので任天堂やファミコンのロゴマークを凄く見ていて、あれってファン蘭に似ているじゃないですか? 1980年代あたりの流行だったのかな?ファンテール体っていうらしいのですが、ああいうロゴを巷でいっぱい見た気がします。

中村 流行だったのかその辺りはよくわかりません。

フォントダス ファン蘭って、任天堂とは関係ないですよね?(笑) 写研のロゴマークの写と研の2文字から展開して文字盤にした書体とお聞きしましたが。

中村 私は写研の社名ロゴタイプを示されて、このデザインで1書体約5,800字を作って欲しいと言われて作りました。写研のロゴを誰がデザインしたのかは私には分かりません。任天堂の社名と写研社名の形状は同じではありませんが、ジャンルとしては同系と思います。

フォントダス 今日、中村さんに僕の中村さん書体コレクションを見てもらおうと用意してきました。

中村 沢山の書体カタログや『文字をつくる』『ハイパースクエアU』までご収集いただき、ありがたく嬉しいです。ナカゴしゃれの「愛」はフォントダスさんのサイトにアップしていただいていますね。それにこのファミリーの掛け軸は初めて見ました。

フォントダス あ、これは掛け軸ではなくて、縦長パンフレットです。この中で何か思い出深いものはありますか?

中村 「ナカゴしゃれ」はアクセントに部分的に白線を入れましたが、どこにどの程度入れるかに苦心しました。

フォントダス ところで最近、新しい書体を出されたとお聞きしましたが。

中村 3月に中村ロゴシ74と中村ロゴゴ94を発表しました。

フォントダス ロゴシとロゴゴですか。ロゴ用の書体だから名前にロゴって付くのでしょうか? 名前の由来を教えていただきたいです。

中村 そのとおりです。ロゴタイプでよく使われる線形を使って作りました。その為両方ともロゴとつけました。

フォントダス フォントの最後の数字は何なんでしょう? あ、わかりました。縦線の太さと横線の太さの割合ですか? ロゴシ74だったら縦線が7の太さに対して横線が4の太さだからでしょうか。

中村 そのとおりです。縦線と横線の比率の数字です。

フォントダス タイポスという書体も同じ様な数字がついていますよね。

中村 そうです。縦横同じ太さなら、L、M、D、E、Uなどで表せますが、太さが違う場合は比率で示したほうが分かりやすいと思いました

フォントダス ロゴシはラテン体というかタイポス風な感じで、ロゴゴは、昭和のホテルのロゴみたいな懐かしさがありますね。
 緑色で『グランドホテル』って打ったらしっくりきそうな。どちらも欧文的なデザインですね! どういうコンセプトなんでしょうか。

中村  縦横同じ太さで作るには限度があります。書体を何種類も作ろうとすると、比率や線形を変える方向になります。
 インスタでロゴゴ94で喫茶アラジンと文字を組んでみたところ、懐かし感が出てました。そんな意図で作ってなかったのですが、結果的にそのような感じになりました。

フォントダス こういう人がこういうシーンで使うだろうっていうのはありますか。

中村 その予想は難しいですが、私はロゴシ74は、サブ見出しや、やや大きめのポイントで本文に使っていただけたらと願っています。ロゴゴ94は、チラシ見出しや看板とテレビ画面に向いているのではと思っています。

フォントダス  今後どういったフォントを作りたいですか? もう計画されていますか?

中村 今までに考案途中のものが15種類ほどありますので、それを改変や修正をして作りたいと思っています。

フォントダス 15種類も?! 凄く楽しみです! 個人的に、昔のファン蘭に似ている、中村長体52/72って好きなんですが、長体ではなくて正体のヴァージョンを作っていただきたいです。モダンなファンテール体は他社だとダイナフォントと数社くらいしか作ってないので中村さんクオリティのフォントは需要があると思います。長体も良いのですが、やはり正体の方がもっと使い勝ってが良いかなと思います。

中村 正体にしますと、線質は違いますが小さいポイントで使った時ファン蘭と似てしまうのではと思い、あえて長体にしました。それに縦線が細いので、長体が最も無理がなく自然かとも考えました。

フォントダス 中村さんはフォント以外でもロゴのデザインとかも今でも受けられているのでしょうか?

中村 私の感覚で出来るようなものであれば作ってみたいと思っています。

フォントダス まだまだお聞きしたいことがいっぱいあるのですが、今日はこの辺で終わりたいと思います。お忙しい所、どうもありがとうございました。

(2019.04収録)

中村征宏さんの新書体、中村ロゴシ74と中村ロゴゴ94のご購入は、中村書体室から。(各5,000円、2つセット8,500円。CD-ROMでの発送になります。)


本対談記事が掲載された中村ロゴゴ94/中村ロゴシ74のパンフレットのPDFデータをダウンロード